桜の樹の下に

今年も桜が満開となった。毎年、私はその桜を見ながら仕事に向っているのだが、最近では桜の下で桜を見上げながら酒を飲むということができていない。だが、桜の美しさを毎日のように眺めることも立派な花見であると思っている。

 

先日も花見をしつつ仕事に向っていたのだが、ふと不思議な感覚になったのだ。桜のあの色が何故か不思議な色合いに見えたのだ。そして、それを感じたと同時にある言葉が思い浮かんだ。

 

桜の樹の下には屍体が埋まっている」

 

有名な小説の一文だ。実は私はその小説を読んだ事がない。「檸檬」は読んだ事があるのだがな。話を戻すが、何故かその時はその一文が思い起こされるような心持になったのだった。桜の花びらのその色合いが、本当にその樹の下に屍体が埋まっていてもおかしくないと思ってしまうほどに、私の心をざわつかせたのだ。

 

私もあの桜の樹の下に埋めてしまいたいものがある。それを言ってしまう訳にはいかないが、それでも言えるとしたら、私のこの醜い心を埋めて、そして、桜の美しさで浄化して欲しいと、心からそう思っている。桜にしてみれば「いい迷惑だ」と言われそうだがな。