最悪な人間

とある物語を読んだ。それは連載物で前後の話は読んでいない。今回、雑誌をパラパラと立ち読みしていて、ふと興味を抱いた物語がそれだったのだ。どうやら主人公の恋人は過去に親を殺されているらしい。そして、主人公が働いている仕事場に、その加害者が一緒に仕事しているようだ。それを知った主人公の恋人が、その恋人に自分の親を殺した加害者とは一緒に仕事をしてほしくないと懇願しているという内容だ。加害者は若いように見えた。殺人という大罪を犯しているのに社会に出て普通に仕事しているということは、もしかしたら罪を犯したのが少年時代だったのかもしれないな。一応、罪は償っているのだろう。だが、親を殺された主人公の恋人は絶対にその加害者を赦せないという。その苛烈なまでの憎み方を見て私は、どうしてもその憎しみが理解できなかった。主人公も私と似たような思いを持ったようだった。加害者は主人公の恋人に向かって土下座して「すみませんでした」と叫んでいる。その姿と、普段の仕事に対する姿を見てきている主人公としては、やはり恋人がそこまでの憎しみを向ける心理が理解できないのもしかたないことではないか。ただ、これが自分の大切な人が殺されたとしたら、その主人公も恐らく恋人の気持ちが理解できるのかもしれない。とはいえ、私がもし、自分にとって大切な人、肉親とか恋人とかが殺された場合、どうだろうかと想像してみた。私はこの物語の主人公の恋人のような苛烈な憎しみは持たないかもしれない。いや、きっと持たないだろうと確信できる。勿論、誰かに憎しみを持った経験はある。実は殺したいほどの憎しみを持ったことはあるのだ。だが、それは自分自身に不利になることばかりする相手に対してだ。つまり、私は私自身を傷つける者に対して、苛烈な憎しみを持つということだな。究極の我儘気質だと私は思うよ。たとえ、私が愛する人であったとしても、その愛する人が私に不利なことや私を傷つけることをしたとしたら、全力で憎むだろう。愛しているから大目にみるという概念は私にはない。本当に私は最悪な人間だな。心からそう思うよ。